豪雨のニューヨークと中秋の名月

10月に入り、暑い日が続いたニューヨークでも、徐々に秋を感じるようになってきました。先週末は、満月が見られると楽しみにされていた方も多かったのではないでしょうか。ニューヨークでは9月29日満月の日に記録的な豪雨に見舞われました。特に被害が大きかったのはクイーンズとブルックリン地区。約200ミリの雨が降ったブルックリンでは道路や地下鉄の駅が浸水して機能不可となり、クイーンズにあるラガーディア空港とジョン・F・ケネディ空港では滑走路が冠水して多くの便が欠航となりました。米国立気象局によれば、今年の9月のニューヨーク市の降水量は約360ミリで、1882年の9月に記録された428ミリに次ぐ大雨となったそうです。

 

(2023年 ロイター/Brendan McDermid)

 

ニューヨーク市が、気候変動によって激しさを増す豪雨による水害に悩まされるのは、やはり重要なインフラが地下に集中していることと、そもそも古いということが原因だと思います。さらに、今年5月のニュースレターでも取り上げた通り、環境悪化による海面上昇と、コンクリートジャングルの重みによってマンハッタンは少しずつ沈んでいます。

 

米シンクタンク「センター・フォー・アーバン・フューチャー(Center for an Urban Future)」は、「ニューヨークでは、大きな嵐が来るたびに街の機能が停止するように思えるが、それも無理はない」とし、その原因として、「ニューヨーク市のインフラは、この数十年の人口増加に対応できていない」「駅や空港、新しい橋などの大きな事業には多額の投資が行われているが、下水道や水道のような『地味な』事業への投資は少ない」と指摘しています。

また、日常的になりつつある都市の水害対策の戦略も、最近は変化をしています。都市は水を流出させる代わりに、水を吸収する“スポンジ”のような構造のインフラを配備するようになってきています。つまり、コンクリートのような不透水性の素材の代わりに多くの緑地を配置して雨を地面に染み込ませ、理想的には帯水層に浸透させて必要なときに取り出せるようにする構想です。決して安くはない税金がこういった水害対策にも有効活用されることを願うばかりです。

 

そんな弱小インフラを持つニューヨークですが、そこに住むニューヨーカー達のタフさは全米一。雨が上がればあっという間に街は賑わいを取り戻しました。電車の運行再開を待ちつつ「華金」を楽しむ余裕は、さすがニューヨーカーです。

 

さて、あいにくの大雨のためにその姿を見ることは叶いませんでしたが、昨年に引き続き、満月となった今年の中秋の名月。必ずしも十五夜に満月が見られるわけではありません。新月から満月までをおよそ15日として数える旧暦において8月15日に見られる月を中秋の名月と呼びますが、実際は月の満ち欠けの周期が一定ではないため、旧暦の8月15日と実際に満月になる日が一致せず、100%満月にはならないのです。

 

 

中秋の名月というと、お団子とススキをお供えして月を眺めて楽しむというイメージがありますが、元々は中国の「中秋節」が由来とされており、日本にこの風習が伝わったのは平安時代。貴族の優雅なたしなみとして広がり、池に浮かべた船の上で酒を酌み交わしながら綺麗な月を眺めたそうです。江戸時代になり、お月見は贅沢な遊びではなく、秋の収穫への感謝と米の豊作を祈るための行事として一般庶民へも中秋の名月を眺める習慣が広がっていきました。

アメリカでも11月には収穫祭であるサンクスギビングが盛大にお祝いされます。習慣は違えど、どの地域でも秋の収穫に感謝し、健康と幸せを祈ることは共通しています。

街中のあちらこちらでパンプキンの飾りを見かけるようになりました。秋は“ニューヨークのベストシーズン”といっても過言ではありません。今年も残り3ヶ月。年末が足音を立てて近づいてくるのを感じますが、オレンジ色の秋の美しさを楽しむゆとりも持っていたいものです。