建築家ホワイト – マッキム、ミード & ホワイト

 

35丁目とパークアベニュー角にルネサンス風ブラウンストーン造りの5階建ての建物がある。正面には大理石の柱に支えられる玄関ポーチと二階ポーチがあり、磨かれた大理石とライムストーン、そしてオレンジ色に細かな鉄の点々(スポット)が入った煉瓦に黄褐色の煉瓦があしらわれている。細く長い煉瓦(Roman Brick)のプロポーションは新鮮で積み上げパターンが心地良い。 Robb Houseと呼ばれるこの建物は、南北戦争後のアメリカ経済の急速な充実期を背景に、綿商人であり上院議員でもあるJ. Hampden Robbが自宅用に建てたもので、1891年に妻のCorneliaと入居している。1911年にRobb氏が亡くなった後は売却されて1923年にクラブハウスとして使用されたが、1977年以降は17ユニットを有するコープ住居となっている。どこまでがオリジナルか不明だが、StreetEasyではユニット2Cの豪華なインテリアを見ることが可能だ。ご興味のある方は早めにご覧ください(ユニット2Cをクリック)。

 

建築を依頼されたのはアメリカ建築界でひときわ輝く建築事務所McKim, Mead and Whiteのパートナーシップの一人、Stanford White氏だ。McKim(1847-1909)はハーバード大学に学び古典主義を学ぶためパリ、エコール・ド・ボザールに席を置いた。Mead(1846-1928)はマネージメントに力を発揮し1977年にパートナーシップを組んでいる。一方、White(1853-1906)はアカデミックな建築バックグラウンドはないが、アメリカの三大巨匠建築家のひとりH. H. Richardsonの事務所で経歴をスタートしている(あとの二人はL. H. SullivanとF.L. Wright )。Whiteはパートナーシップの中でアーチスティックでクリエイティブなデザインをリードする役割をになっている。

 


Left: Architect Stanford White / Right: Isaac Bell House

 

McKim, Mead and Whiteの初期にはIsaac Bell Houseなどシングルスタイルといわれる板葺きで自在な平面計画とのび広がる量塊に特徴のある木造建築で名をはせた後、古典主義スタイルのより大規模な建物へと移行していくこととなる。デザイナー部門を充実させデザインクレジットを個人よりも会社に帰属させるシステムの採用もあって、ニューヨーク州、ニューイングランドを中心にワシントンD.C. からアメリカ中西部にまで広い地域にわたり本家フランスボザールを規模と量で圧倒するアメリカンボザールの立役者となった。その反面、近代建築史の流れの中で折衷主義、伝統主義とされ、モダンデザインの時代を遅らせたとの評価もある。McKim, Mead and Whiteにみられるこのようなパートナーシップはスリーキャピタルと呼ばれる現在活躍するSOM (Skidmore, Owings and Merrill) やKPF (Kohn Pedersen Fox) 等の建築デザイン会社の先駆けとなっている。

 

 

さて、ニューヨーク社交界で大活躍するWhite氏は1906年に自らデザインした建物のルーフガーデンでピストルで殺されることとなる。事件の舞台は二代目マディソンスクエアガーデン、1927年に現在あるNew York Life Insurance ビルがとって替わった場所だ。8,000人以上も収容できるインドア・スポーツアリーナとして、また娯楽の殿堂としての顔を持ち、盛沢山に装飾された建物には当時ニューヨーク市で二番目を誇る32階高のベルタワーを併設している。レスリング、ボクシングはもちろんのことインドアフットボール、マラソン、オートショウ、ホースショウも催されたそうだ。ルーフガーデンの天井はボタンを押すと15分で開く演出もされたということだ。そのルーフガーデンで開催されたショウ ”I Could Love A Million Girls”のフィナーレ最中にWhite氏は至近距離より射殺される。犯人は億万長者のHarry K. Thawで、妻のEvelyn Nesbitが結婚前に巻き込まれたWhite氏との性的事件への報復だったそうで、大スキャンダル事件となった。(写真上:事件を報じる新聞、写真下:同時代のルーフガーデンの様子)

 

マンハッタンを活動の場とする人にとってMcKim, Mead and Whiteの建物との出会いは相当に頻度が高い。マンハッタンにあるパブリック図書館のブランチ11棟をはじめ、すべては網羅できないが、McKim, Mead and White のなかで有名なもの、そしてWhite氏が関わったものを中心にGoogle Mapにマークしたので現存する建物をお楽しみください。

 

 


The Washington Square Arch

 

 


The Harvard Club

 

 

The Villard Houses

 


The University Club

 


The Century Association Club