ニューヨークで辿る、話題の映画『ブルータリスト』

 

本年度のアカデミー賞で主演男優賞、撮影賞、作曲賞の3冠を果たした話題の映画『ブルータリスト』。

エイドリアン・ブロディ演じるユダヤ人建築家のラースロー・トートがホロコーストを生き延び、家族と離れ離れになって亡命してきたアメリカで経験する困難や移民としての苦悩、トラウマとの対峙などを描く物語です。

 

実はこのキャラクターは、ハンガリーからアメリカへ渡ったマルセル・ブロイヤーをはじめとする「ブルータリズム」という様式で知られるヨーロッパ出身の建築家などがモデルとされています。

 

ブルータリズムとは、第二次世界大戦後の1950年代から見られるようになった建築様式で、打ちっ放しのコンクリートやガラスなどの無骨な素材により機能性や構造が強調されたデザインです。ヨーロッパから始まったブルータリズムは、やがて上記のような移民建築家によってアメリカにもたらされます。

 

当時の移民の玄関口であったニューヨークにも、こうした建築家によるブルータリズムの足跡が残っています。

現在は見ることができないものもありますが、映画にも影響を与えた代表的なものをいくつかご紹介します。

 

映画『ブルータリスト』より

 

 

 

The Breuer Building

 

ニューヨークにおけるブルータリズム建築の代表とも言われるのが、The Breuer Building。

1966年、前述のマルセル・ブロイヤーにより、ホイットニーミュージアム(現在は移転)として建てられたビル。

映画『ブルータリスト』で建築や家具などのプロダクションデザイナーを務めたジュディ・ベッカーのお気に入りの作品でもあり、作中でもオマージュされています。

 

伝統的な石灰石やレンガなどで作られた建物が立ち並ぶ中、コンクリートがむき出しの存在感のある外観は、完成当時は「地味で、重く、荒々しい」とも批評されました。しかしながら現在では、大胆で強く、革新的なモダニズム建築の代表作となっています。

 

The Breuer Building, 945 Madison Avenue, New York, 2023. Photograph by Max Touhey

 

https://whitney.org/about/breuer-building

https://casabrutus.com/categories/culture/440890

https://www.timeout.com/news/the-5-remarkable-real-life-buildings-that-made-the-brutalist-021125

 

 

 

 

Brooklyn Museum / MoMA

 

映画をご覧になった方は、主人公のラースローがアメリカに来て初めて手掛けた書斎の真ん中にポツンと置かれたスチールパイプ製のリーディングチェアが印象に残っているのではないでしょうか。

このデザインはブロイヤーやドイツからの移民建築家であるミース・ファン・デル・ローエの作品をモデルにしていると言われています。スチールパイプを使用したミニマルなデザインは、機能性とデザイン性を兼ね備えたモダン家具の代表作として、現在でも強い影響力を持っています。

 

作中に登場するリーディングチェア

 

ニューヨークでは、Brooklyn Museum、MoMA、メトロポリタン美術館などに彼らの多くの作品が収容されています。

2025年3月現在、Brooklyn MuseumとMoMAではそれぞれブロイヤーとミース・ファン・デル・ローエの椅子が展示されていますので、ご興味のある方は見に行かれてはいかがでしょうか。

 

ブロイヤーの作品 / Brooklyn Museum photograph

 

https://www.brooklynmuseum.org/objects/76481

https://filmandfurniture.com/2025/01/furniture-in-the-brutalist-how-early-modernist-designers-influenced-a-monumental-tale/

 

 

 

 

Westchester Reform Temple

 

Westchester Reform Templeも1954年のブロイヤーによる作品で、地上からはわかりませんが、上から見るとダビデの星の形をしたユニークな形状となっています。

 

実はこの建物があるニューヨーク州スカースデールは、映画『ブルータリスト』のプロダクションデザイナー  ジュディ・ベッカーの出身地。

主人公がアメリカ人の富豪からの依頼で設計するコンクリート壁の聖堂は上から見ると十字架の形になっていますが、もちろんこのデザインは彼女が幼い頃から親しんだWestchester Reform Templeのオマージュです。

 

残念ながらこちらの建物は2008年に改築されてしまい、現在は見ることができませんが、映画にも大きな影響を与えました。

 

 

https://nyheritage.contentdm.oclc.org/digital/collection/scpl/id/170/

https://forward.com/culture/film-tv/694285/the-brutalist-oscar-judy-becker-design-architecture/

https://wrtemple.org/about/

 

 

エイドリアン・ブロディの名演はさることながら、建築や家具のデザインも印象的な映画『ブルータリスト』。

まだ見ていない方は是非ご覧いただき、その背景にあるデザイン史を辿ってみてはいかがでしょうか。

 

https://www.universalpictures.jp/micro/the-brutalist

 

 

 

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