「脱炭素社会」とこれからの建築

1月20日、この日付はアメリカ憲法上謳われている4年に一度大きな意味を持つ日です。4年或いは8年に一度、新旧大統領はこの日の正午に入れ替わりますが、今年はバイデン新大統領が物々しい警戒体制の中、誕生しました。異例の就任式を終えたバイデン氏はホワイトハウスの執務室に入り、早速初仕事として15本の大統領令を出しました。

 

折からのコロナ感染拡大を食い止める重要な施策にもいくつか署名をしましたが、アメリカだけでなく世界にも長期的な影響をもつであろうものの一つに、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」に復帰することを国連に通達する文書にも署名をしました。この他にもカナダからメキシコ湾に原油を運ぶパイプラインの拡張計画を巡り、前政権の出した許可を取り消すなど、「脱炭素社会」に向け一気に舵を切りました。

 

「脱炭素」というと従来のガソリン車から電気自動車に転換を図るなどの最近の自動車業界の動き、広くは輸送業界の傾向を思い浮かべる方が多いかと思います。今日は、それ以上にこれからの「脱炭素社会」に大きな影響をもつであろう建物や建設業のお話を致しましょう。

 

国際エネルギー機関(IEA)の2019年の統計によると、世界の炭素排出の原因は、その23%が輸送関連であるのに対し、一般住居とそれ以外の建物全体で28%、建築関連産業で11%、建築以外の産業全体で31%、その他が7%という内訳になっています。また、建設資材自体とその採取、製造工程を含めると炭素排出全体の50%程度にもなるという別の統計もあります。

 

「パリ協定」では、温室効果ガスの排出量を今世紀後半に実質ゼロにすることなどを目標に掲げていますが、これを受けて世界の122の国と地域が2050年までの実質ゼロを目指しています。菅首相も所信表明演説で、この目標に言及し、「脱炭素社会」の実現に向けて意欲を示されています。

 

最近の建設業界では、エネルギー効率とサステナビリティを柱とするLEED(Leadership in Energy and Environmental Design)などの基準に沿って、資材の選択や建築プロセスで炭素排出量を減らす努力をする傾向が顕著になってきています。具体的な環境への影響を数値化するため、Life Cycle Impact Assessment(LCIA)という考え方を取り入れ、スチールやセメント、断熱材などの素材そのものに加え、採取方法や製造工程での炭素排出まで計算・分析してデザイン、構造、建設工程などに活用しています。また資材の再利用、リサイクル、近距離からの調達による輸送の短縮なども炭素排出削減に貢献するとしています。更に相対的に環境への影響の少ない木材にも注目し、構造・骨組みなどへの木の広い活用を検討している流れも出てきているそうです。

 

「脱炭素社会」は都会の街並みも変化させるかも知れません。