初めてでも分かる!アメリカの設計・工事プロセス
アメリカで建設プロジェクトを進める際、日本とは大きく異なる工程や許認可のプロセスに戸惑う方も多いでしょう。特にニューヨークの建物は規制や制約が厳しいことで知られていますが、実はこの設計・施工の基本的な流れはアメリカ全土で共通しています。
本記事では、現地調査から最終確認のPunch Listまで、アメリカの設計・工事プロセスをわかりやすく整理して解説します。これを理解することで、許認可の遅延や施工上のトラブルを事前に予測でき、スムーズなプロジェクト進行につなげることができます。
ニューヨークを例に具体的なポイントを紹介しながらも、アメリカ全体の建設プロジェクトに応用できる内容となっていますので、米国進出を検討中の事業者や建設関係者にとって必読の内容です。
1. 現地調査・Testfit
まず、プロジェクトの最初のステップは現地調査とTestfitです。

現地調査では、建物の状況を詳細に確認し、設計の方向性や施工可能性を判断します。アメリカでは建物ごとに規模や設備、オーナーのルールが異なるため、この現地確認は非常に重要です。
さらに、この段階で建物条件を把握することで、後に必要となる許認可(Permit)の種類や物件固有の特性、懸念点を整理でき、施工段階での遅延を最小化できます。
例えば、既存の配管や電気設備の位置によっては、解体や配管工事に余計な時間がかかる場合があります。また、搬入経路の確認や既存設備の状況、共用部の利用制限もチェックし、後の設計段階に反映させます。
Testfitでは、設計の大枠が物理的に成立するかどうかを確認します。これにより、無理のない計画を立てることが可能となり、この段階での綿密な現地確認が、その後の工事のスムーズさに直結します。
2. 基本設計(Schematic Design)
次に、基本設計では空間のレイアウトや主要動線、機能の大枠を決定します。
この段階でオーナーや関係者とイメージを共有することによって、後工程での大幅な修正を防ぎ、工期を安定させることが可能です。
例えば、オフィスの場合は社員の動線や会議室の配置、受付エリアの位置を決定し、来客動線と内部動線が交差しないよう調整します。また、レストランや店舗の場合は、厨房と客席の動線やバックヤードの収納スペースなどを計画し、オーナーの意図に沿った機能性を確保します。
基本設計が固まることで、実施設計や施工図作成に進む際の指針となり、プロジェクト全体の方向性を明確化できます。そのため、設計の初期段階で十分な検討を行うことは、後の許認可や施工段階のトラブル防止にもつながります。
3. 実施設計(Design Development)
実施設計では、照明、空調、内装材、仕上げなどの詳細を決定します。
設備や仕上げの仕様を具体化することで、工事見積もりの精度が向上し、VE(Value Engineering)の検討も円滑に進めることが可能です。設計の精度が高いほど、Permit申請や施工段階でのトラブルを減らすことができ、結果として工期の遅延リスクも大きく低減します。
さらに、アメリカ全土で共通の建築コードや各種規制への適合もこの段階で確認されます。例えば照明や空調設備は、NYCのEnergy Code(建物の省エネ性能に関するNYC独自の基準)やLocal Law 97(建物の温室効果ガス排出量に上限を設ける環境規制)などに適合させる必要があります。これらの要件を前もって考慮して設計しておくことで、後の変更や追加工事を防ぐことができます。
4. 工事図面/施工図(Construction Document)
次のステップでは、Permit申請や施工に必要となる工事図面・施工図を作成します。これらは電気、配管、壁・天井、木工などの各Trade(職種)が作業できるレベルまで詳細化され、建設プロジェクトの“設計図”として重要な役割を果たします。
図面には、設備位置、仕上げ仕様、搬入経路など、現場での判断に影響する情報を正確に反映します。例えば、壁の位置や天井の高さ、電気コンセントや照明スイッチの配置を詳細に定めることで、施工中の手戻りを大幅に減らすことができます。
また、アメリカでは複数のTradeが同時に作業できないケースが多く発生するため、作業順序を考慮した図面計画も不可欠です。施工図の精度が高いほど、Permit取得の迅速化や現場での効率的な進行につながり、プロジェクト全体のスムーズな推進に大きく貢献します。
5. 家主レビュー
次に、家主レビューでは建物オーナーや管理会社に設計図面を確認してもらいます。
この段階で搬入制限、使用可能設備、共用部のルールを設計に反映しておくことが重要です。なぜなら、設計段階で建物の制約を考慮することで、現場施工中の手戻りや追加工事を防ぎ、工期の遅れを最小化できるからです。
また、家主レビューを通じて、建物の固有条件やオーナーの要望を事前に整理することで、施工段階での意思疎通もスムーズになります。特にマンハッタンの既存ビルでは搬入エレベーターの利用制限や搬入時間帯の制約が厳しいため、設計段階でこれらを反映しておくことは非常に重要です。

6. 許認可申請
家主レビューが完了すると、許認可申請の段階に入ります。
許認可申請では、DOB(建築局)、FDNY(消防局)、Health Department(保健局)など、複数の機関から承認を得る必要があります。ニューヨークに限らず、アメリカ全土で建設プロジェクトを進める場合も、Permit(建築許可)取得前に着工することはほぼ認められていません。
申請期間はプロジェクトの規模や用途、地域の審査状況などによって異なりますが、数週間から数か月かかることも珍しくありません。また、Permit申請の審査では、設計図の不備や不足が指摘されることも多く、その場合は修正した図面を再提出しなければなりません。再提出・再審査には当然追加の時間が必要になるため、事前にどの許可が必要で、どの条件が適用されるかを整理し、可能な限り完成度の高い設計図を提出することが、全体スケジュールを守るための重要なポイントとなります。特にニューヨークでは規制が厳しく、建築コードも頻繁に更新されるため、最新の要件を踏まえて Permit 申請を行うことがトラブル回避に直結します。
7. 工事見積・Value Engineering(VE)
Permit申請中には、施工図面を基に複数社から見積もりを取得・評価し、最適な施工業者を決定します。見積もり金額が予算に収まらない場合には、VEを通じて材料選定や設備仕様の最適化を行い、予算とのバランスを調整します。必要に応じて代替素材の検討や施工方法の見直しも行います。このように、Permit取得までの待ち時間を有効に活用することで、施工開始前に必要な調整を完了させ、結果として工期の短縮につなげることができます。
また、日本では着工後も施工内容の細かな調整が可能ですが、アメリカでは見積もり以降の変更は追加費用として発生するため、施工内容はこの段階で確定したうえで施工契約を結ぶことが非常に重要です。
8. 着工
工事許可が取得でき次第、現場での施工が始まります。施工段階では、Trade Sequencingを意識して作業を進めます。Trade Sequencingとは、各職種の作業順序を計画・管理し、効率的かつ安全に施工を進めるための工程管理のことです。アメリカではUnionや安全規制の影響で、複数の職種が同時に作業できない場合が多く、順序の管理が非常に重要です。例えば、空調工事は天井作業の前に完了させる必要があります。
また、日本から取り寄せる家具や照明、空調設備などの納期が長い資材(Long-lead items)は、施工開始前に手配しておく必要があります。これにより、現場で資材が不足して作業が止まるリスクを減らし、スムーズな進行が可能となります。さらに施工中には、建物管理者や検査官との調整も発生するため、予めスケジュールに余裕を持たせておくことが重要です。
9. 作業完了後・Punch List
施工完了後にはPunch List(最終確認と手直し作業)を行います。図面通りに施工されているか、設備が正常に機能しているかを確認し、必要に応じて修正を加えます。このステップを丁寧に行うことで、仕上がりの品質を確保し、プロジェクト完了まで安心して進めることができます。
また、Punch Listでの修正を最小限に抑えるためには、前工程での準備や調整が非常に大切です。さらに、完成後の設備運用や維持管理の観点からも、この段階で不具合を確認して改善しておくことで、将来的なトラブルを防ぎ、長期的に快適に利用いただくことができます。
アメリカでの建設プロジェクトは、単に着工して作業を進めるだけではスムーズに完了しません。許認可取得や家主レビュー、Trade Sequencing、長納期アイテムの手配など、多くの工程を踏まえたスケジュール管理が不可欠です。当社では、現地調査で建物条件を把握し、設計段階で制約を反映。Permit申請中には見積やVEを並行して進め、必要な資材は早めに手配することで、効率的かつ現実的なスケジュールを構築しています。
今回の例ではニューヨークを取り上げましたが、紹介した工程は細かな違いはあれ、基本的にアメリカ全土で共通するものです。この流れを理解しておくことで、プロジェクトの進行状況を把握しやすくなり、見積や工期への納得感も高まるでしょう。
より詳しいご説明やご相談をご希望の方は、どうぞお気軽にご連絡ください。
出典:
https://www.nyc.gov/site/buildings/codes/energy-conservation-code.page
https://www.nyc.gov/site/buildings/codes/ll97-greenhouse-gas-emissions-reductions.page
https://www.nyc.gov/site/buildings/industry/obtaining-a-permit.page
https://www.nyc.gov/site/buildings/property-or-business-owner/plan-examination.page
https://www.nyc.gov/site/fdny/business/all-certifications/all-certifications.page
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