アメリカの工事はなぜ遅れる?【着工前 編】
「 アメリカの工事 は遅れるのが当たり前」と言われることがあります。
日本では、設計が終わればすぐに工事が始まり、予定通りに完成するのが一般的ですが、アメリカではそう簡単には進みません。
その理由は、国ごとの働き方の違いだけでなく、着工前に必要な申請・承認手続きが非常に複雑であることが大きな原因です。
ただし、これらのプロセスを事前に理解し、適切な体制とスケジュール管理を行えば、不要な遅れを回避することは可能です。
9月と10月のニュースレターでは、アメリカの工事における「遅れの原因と対策」を、【着工前】【着工後】の2編に分けてご紹介します。
今回は【着工前 編】として、特にニューヨークの事例を中心に解説します。
アメリカ国内では州や都市によって細かなルールが異なりますが、「着工前の許認可や承認プロセスで時間がかかる」という構造的な問題は、ロサンゼルスやシカゴ、テキサスなど他の主要都市にも共通しています。
そのため、この記事を通じて、アメリカ進出を検討されている皆さまが、どの都市でも役立つ実践的な視点を得ていただければ幸いです。
- 建築許可(Permit)が下りない
着工前の段階でもっともよくある遅延の理由が、「建築許可が下りない」というケースです。
ニューヨーク市では、内装工事であっても、Department of Buildings(通称DOB/ニューヨーク市建築局)からの建築許可が必要になります。
図面が完成しただけでは着工できず、申請書類の整備や審査への対応を経て、正式に許可が下りるまでには数週間から、場合によっては数ヶ月かかることもあります。
このプロセスでは、建築士が署名した図面や、電気・空調などの設備図(MEPと呼ばれます)、エネルギーに関する適合報告書など、工事を始めるには多くの技術書類が必要です。申請が一度で通らないこともあり、審査中に追加資料を求められることも珍しくありません。
こうした遅れを防ぐには、設計の初期段階から「申請図面」として必要な要素を盛り込むこと、そしてDOB申請専門の代行担当者(通称 エクスペダイター)と早い段階から連携を取っておくことが重要です。
- 建物オーナーの承認が下りない
ニューヨークの商業物件では、建築許可とは別に、「建物オーナーの承認(Landlord Approval)」が必要になるケースが多くあります。
特にオフィスビルや複合商業施設などでは、オーナー側が内装内容を審査するプロセスが契約条件として定められているのが一般的です。
この審査では、デザインや工事内容が建物全体の構造や他のテナントに与える影響をチェックされるほか、オーナー側のガイドラインに基づいた仕様や設備条件の確認も行われます。ときには、仕上げ材のサンプル提出や、施工業者の事前承認を求められることもあり、予想以上に時間がかかることがあります。
こうした事態を避けるには、物件選定や契約時に、オーナーのレビュー条件や承認プロセスをしっかり把握しておくことが大切です。また、過去に同じビルで工事を経験したチームと組むことで、承認をスムーズに進めやすくなることもあります。
- 必要な工事書類が揃っていない
図面が仕上がり、施工見積もりも済んでいるのに、実は工事に必要な書類がまだ揃っていなかった――そんな事態もよく起こります。
これは、設計・申請・施工の担当がバラバラな場合に起こりやすい問題です。
たとえば、DOBへの申請やオーナー承認に求められる図面や資料には、既存設備の図(Existing Conditions)、電気・配管・空調といったMEP図、そして仕上げ材一覧(Finish Schedule)などが含まれます。これらが未完成だったり、フォーマットが不適切だったりすると、申請自体が受理されません。
こうしたトラブルを避けるには、設計図面を「設計上の完成」だけで終わらせず、申請に必要な形式・内容まで含めて管理できる体制を整えることが欠かせません。特に日本からアメリカでのプロジェクトを管理する場合は、現地の申請要件に慣れたチームを選定することがスムーズな進行の鍵となります。
- インフラ(電気・水道・ガス)との調整が間に合わない
意外に見落とされやすいのが、建物外部とのインフラ調整です。電力会社(Con Edison)や水道局、通信会社などとの調整は、申請と同様に着工前にクリアしなければならないステップです。
新規契約や容量増強が必要となる場合には特に時間がかかる傾向がありますので、要注意です。
たとえば、既存の電力容量では足りず、電気メーターの新設や容量アップが必要になることがあります。その場合、工事前にCon Edisonへの申請と承認が必要となり、現場調査や設備調整のために数週間~数ヶ月を要することもあります。
また、ガスについては、2024年以来、天然ガスの使用量を減らすため、ニューヨーク市内の7階以下のビルでは基本的にガスの新設は禁止されており、2027年には7階以上のビルでも禁止される予定です。(Local Law 154)既存のガス供給の容量アップにも数カ月、場合によっては1年以上を要しています。
こうした問題を事前に把握しておくためにも、工事に関わるMEP(設備設計)担当者が早期に現場を確認し、インフラ調整の必要性を判断することが重要です。
- プロジェクト全体の進行管理ができていない
最後に、意外と根深い原因が「誰も全体を把握していない」という状況です。設計は設計事務所、申請はエクスペダイター、施工は別会社というように、プロジェクトが分業で進んでいる場合、誰が今ボールを持っていて、次に何をすべきかが見えなくなることがあります。
その結果、着工の準備が整っていないのに「いつ始まるのか」と現場にプレッシャーがかかったり、逆に工事側が動ける状態なのに関係者の承認が間に合わずストップしたりと、非効率な事態に陥りやすくなります。
これを避けるには、設計・申請・施工を一貫して担えるチームに依頼することで、コミュニケーションロスや進行のムダを大幅に減らすことが可能になります。
また、大規模なプロジェクトの場合には、プロジェクト全体を統括する役割、いわゆるプロジェクトマネージャーが入ることもあります。
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ニューヨークでの工事は、設計図が完成したら即スタート、とはなかなかいきません。むしろ、工事が始まる前の「承認・申請・調整」の段階こそが、プロジェクトの成否を左右する最初の関門ともいえます。
しかし、こうした課題は、事前にプロセスを理解し、適切な準備とチーム編成を行えば、確実に乗り越えることができます。
当社では、設計・許可申請・施工管理までを一貫して対応できる体制を整え、20年以上に渡りニューヨークでの出店・改装プロジェクトを多数支援してきました。日本のクライアントとのリモート対応にも慣れており、日本の商慣習を理解しながら、現地特有の規制やプロセスに対応した実行力に自信があります。
「計画があるけれど、何から始めていいかわからない」「進行が遅れていて不安」という方は、ぜひ一度ご相談ください。
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