パークアベニューの近代建築

ニューヨークで生活を始めて間もないのですが、世界的に有名な建築が徒歩圏内に多数あり、実際に見に行ける事がこの街の魅力の一つだと思います。建築の勉強をしていた学生時代に、建築学の教授から興奮気味にシーグラムビルディングの写真を見せられたことを思い出し、早速シーグラムと、同じく名建築のリーバハウスを見てきました。

 

パークアベニューに面して建つオフィスビル群の中、52丁目と54丁目の間にシーグラムビルディング(下の写真左)とリーバハウス(同右)があります。どちらも近代建築における超高層オフィスビルの名作です。

 

シーグラムビルディングは近代建築の巨匠の一人である、ミース・ファン・デル・ローエによる設計です。ミースはドイツとシカゴに多くの作品を残した建築家で、「Less is More」や「God is in the detail」などの言葉も有名です。ミースのデザインは建築だけでなく、バルセロナチェアなどの家具も多くの人に愛されています。ニューヨークでは、このシーグラムビルディングがミースの唯一の作品なので、貴重さがより増します。

 

設計当時、前面道路からの斜線規制に対応しつつ、箱型のデザインを実現するために、パークアベニューに面して大きく広場を設け、建物をその後ろに配置しました。また、ミースは外観に完璧な美しさを求めたため、窓に取り付けるブラインドは全て、閉じる、中間、開ける、の3段階しか調整できないものとし、外からの見え方を徹底したという説もあります。


(シーグラムビルディング正面広場、両脇は噴水)

 


(リーバハウス)

 

リーバハウスはシーグラムビルディングの斜め向かいに6年早く建築されました。こちらは、ニューヨークで初めてガラスカーテンウォール方式を採用した超高層ビルです。(国連本部ビルも同時期にカーテンウォール方式を採用して建築されました。こちらは多くの建築家が設計に関わっており、その一人にル・コルビュジェがいます。)

 

このようなシーグラムビルディングとリーバハウスの設計は、当時、世界の建築に大きな影響を与え(インターナショナルスタイルと呼ばれます)、世界各地でこれらをお手本にした高層ビルが次々にデザインされました。

 

現代でもニューヨークの街並みの象徴になっているアール・デコ(1910~30年代に流行)の建築群に比べて、近代建築(1920~60年ごろ展開)は意識しないと見過ごしてしまいそうなほど、装飾をそいだ外観です。これは、機能性や合理性を目指した近代建築の造形理念に適ったものです。新たな建築思想は、その時代の産業革命や、工業、技術の発展に密接に結びついており、同時に建築家たちのそれまでの建築様式に対する反逆的な思想も現れます。

 

リーバハウスでガラスカーテンウォールが実現したのも、それまでの石造りとは違い、柱とスラブで構造を支える建設方法が推進されたからです。壁を構造体とする必要がなくなり、また、ガラスの大量生産技術の発展によりガラスカーテンウォールが可能になったのです。

 

今回あげた二つのビルはオフィスビルなので、内部を見て周る事はできませんが、外から見てもその艶やかさ、存在感、近代建築の原則(※)に沿ったデザインを十分に楽しむことができます。※近代建築の五大原則 ①ピロティ(2階建以上の建物において地上部分が柱(構造体)を残して外部空間とした建築形式) ②自由な平面 ③自由な立面 ④水平連続窓 ⑤屋上庭園

 

近代建築、モダニズム建築と位置付けられていても、既に時代を経た建築様式であり、当然ながら新しい建築様式やそれに対する反逆的思想は常に生み出されています。移りゆく時代と建築様式、思想の中で、自分好みのデザインを見つけられたら良いですね。