アメリカの工事はなぜ遅れる?【着工後 編】
アメリカの工事は「着工前からすでに遅れる要因が潜んでいる」とお伝えした【着工前 編】に続き、
今回は工事が始まってから直面する遅延の要因について、ニューヨークの事例をもとにご紹介します。
設計と許可が整い、いよいよ工事がスタートした——にもかかわらず、なぜか思うように進まず、引き渡し時期が遅れてしまう。
これはニューヨークに限らず、ロサンゼルスやシカゴ、テキサスなど、他の都市の現場でも日常的に起きている問題です。
州ごとにルールや施工体制が異なるとはいえ、「着工後に発生する現場の課題によりスケジュールが伸びてしまう」という本質的な構造は共通しています。
そこで今回は、着工後に工事が滞る典型的な原因と、その対策について現場での実例も踏まえながらお伝えします。

1. 現場に入ってから図面との不整合が発覚する
最もよくある遅延の要因が、現場に入ってから「設計図と実際の状況が違う」ことが発覚するケースです。
これは既存図面の情報が古かったり、建物側で詳細な設備図面が整備されていなかったりするために起こります。
たとえば、壁の中にあるはずのない配管が見つかったり、天井裏の空間が想定より狭かったりと、設計段階では見えなかった課題が現場で露呈します。
問題は、この時点で責任の所在が不明確なまま工事が進んでしまうことです。
アメリカでは設計と施工が別会社に分業されていることが一般的なため、施工業者は「設計図に書かれていなかった」として追加費用を要求し、設計者は「既存図面になかった」あるいは「図面には反映していたので施工業者のミスだ」と反論する、といった責任の押し付け合いが発生します。
この対立によって工事はストップし、解決が長引けば長引くほどスケジュールが後ろ倒しになります。
結局は「一刻も早く進めてほしい」と願うクライアントが折れ、追加費用を負担して施工を再開させることに。実務では珍しくない光景です。
こうした事態を避けるには、まず設計前の現地調査を徹底することが大切です。そのうえで、現場での変更を前提にしたスケジュールと予備予算を確保しておくことも重要です。
さらに、可能であれば設計と施工を一貫して担う業者を選ぶことで、責任の押し付け合いによる遅れや追加費用を回避できます。
クライアントにとっては、余計なコスト負担や工期延長を最小限に抑えられるうえ、現場で予期せぬ変更が生じても図面への反映がスムーズに行えるため、安心して工事を進めることができます。
2. 職人の管理調整がうまくいかない
アメリカの商業工事では、電気・空調・内装など各専門業者がそれぞれ別契約で動いているケースが一般的です。
そのため、ある工種が遅れると、次の作業が順番待ちとなり、全体のスケジュールに影響が出ることがあります。
たとえば、配線工事が予定より2日遅れると、その後に予定していた天井仕上げ工事が1週間後にずれ込む、といった具合です。
さらにニューヨークのように職人が慢性的に不足している地域では、再調整がすぐにできず、そのまま工期全体の遅れにつながることも少なくありません。
ここに加えて大きな要因となるのが「ユニオン(労働組合)」です。
アメリカではユニオンの影響力が強く、建物やオーナーから「ユニオン所属の職人を使うこと」が指定されるケースも多くあります。
ユニオンには労働時間や勤務体制に関する厳格なルールがあるため、夜間や休日の作業が制限されることも少なくありません。シフト調整に時間がかかることが多く、次の職人が現場に入れるまで数日〜数週間待たされることもあります。
こうした状況に対応するには、工事全体を俯瞰し、各工種の工程を細かく調整できるプロジェクトマネージャーの存在が不可欠です。
また、可能であれば施工チームを一括管理できる体制を整えることで、ユニオンのシフト調整や職人のスケジュール確保がスムーズになり、タイムロスを最小限に抑えることができます。
3. ビル管理者やテナント工事による制約で作業が進まない
特にマンハッタンのような大型オフィスビルや商業施設では、日々の工事実施にもビル側の承認や制約が必要なケースが少なくありません。
資材の搬入や騒音作業の時間帯、エレベーターの使用制限、警備との調整など、ビルごとに細かいルールが定められています。
さらに、商業施設やオフィスビルでは、テナント工事特有の制約も存在します。たとえば「平日の昼間は騒音を伴う工事禁止」「作業は夜間のみ可能」といった条件です。これにより、同じ工事でもスケジュールが数倍に伸びることもあります。
このため、施工側が準備万端でも、「今日はビル側の承認が間に合わなかった」「警備担当が不在で作業できなかった」といった理由で、作業が進められないことが少なくありません。
こうした現場調整がスムーズにいかないと、1日の遅れが積み重なり、最終的には数週間単位のロスにつながることもあります。
対策としては、事前前に建物側の管理規定やルールを確認し、ビル管理者との調整を行うことが重要です。
また、予期せぬ行き違いや現場での不測の事態も想定し、週単位の作業計画に反映させておくことで、スケジュールの遅延リスクを最小限に抑えることができます。
4. 材料や設備の納品が遅れる
アメリカでは、必要な材料や機器が予定通りに届かないという問題も、工事遅延の大きな要因です。
物流の遅れ、発注ミス、仕様変更、供給不足など、理由はさまざまですが、特に近年はHVAC(空調設備)や照明器具、トイレなどの衛生機器の納期が数週間~数ヶ月遅れるケースが目立ちます。
工事の進行に必要な資材が届かないと、他の工程までストップしてしまうことがあるため、サプライチェーンの管理は非常に重要です。
可能であれば、設計段階で納期の長い商材(Long lead items)を特定し、早期発注や代替案の準備を行うことが望まれます。また、現地で流通している製品やメーカーを優先的に採用することで、調達リスクを減らすことができます。
5. 検査待ちで工事が止まる
工事中には、DOB(建築局)による中間検査や、建物管理者による施工状況チェックなど、複数の「承認ステップ」が存在します。
たとえば、天井を塞ぐ前には電気配線の検査を通過しなければならず、壁を閉じる前にはスプリンクラーや配管まわりの検査が必要です。
さらにニューヨークでは、DOBの検査に加え、第三者検査機関(Third Party Inspection Agency)による確認や、消防署(FDNY: Fire Department of New York)によるスプリンクラー・火災報知設備の検査も不可欠です。
これらはそれぞれ独立したスケジュールで動くため、どこか一つでも予定が合わなかったり、不備が見つかったりすると工事全体がストップしてしまいます。
特にニューヨークでは、検査担当者のスケジュールが数週間先まで埋まっていることも珍しくなく、再調整に1〜2週間かかるケースもあります。その結果、工期全体に大きな影響を及ぼすことになります。
こうした事態を防ぐには、事前に必要な検査のタイミングを正確に把握し、工程表に組み込むことが重要です。
また、検査に通らずやり直しになるリスクを避けるため、建築コードを確認しながら設計を進めるほか、場合によってはコードコンサルタントを雇い、検査前に自主チェックを行う体制を整えておくことが求められます。
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ニューヨークでの工事は、着工すればすべて順調に進むというわけではありません。
むしろ、工事が始まってからこそ、現場対応力や全体管理のスキルが試されると言えます。
しかし、こうした遅延要因の多くは、経験に基づく体制づくりと初期段階での準備によって、確実にリスクを軽減することが可能です。
当社では、設計・許認可・施工管理の各段階を一貫して担当し、20年以上にわたりニューヨークでの商業工事を数多く支援してきました。
各工程のつながりを意識した管理体制により、工事中のロスやトラブルを最小限に抑えるノウハウがあります。
「工期遅れは絶対に避けたい」「進捗が読めず、引き渡し時期が見えない」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。
現地事情に精通した私たちが、最適な進行プランをご提案いたします。
出典:
U.S. Bureau of Labor Statistics – Union Members Summary
U.S. Bureau of Labor Statistics – Construction: NAICS 23
DOB – Inspections
DOB – Special Inspections
FDNY – Inspections
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